Netflix映画『デリシャス』は、不思議な存在感を持つ若い女性テオドラを、期間限定で家政婦として雇わざるを得なくなった一家が、彼女に翻弄された末に迎える不気味な結末が描かれます。本作で何が起きるのか、ネタバレあり・なしでダイブイン(考察)していきます!
『デリシャス』の概要
『デリシャス』のあらすじ(ネタバレなし)
ドイツ人の夫婦ジョンとエスターは、娘アルバと息子フィリップを連れてフランスのプロヴァンスにある別荘へバカンスに行く。レストランでディナーを楽しんだ一家は、帰り道でテオドラという若い女性を車ではねてしまい、別荘で手当てをする。
次の日、彼女は別荘から姿を消していたが戻って来て、怪我のせいで仕事をクビになったから、バカンスの間だけ家政婦として雇ってほしいと頼み、一家のために期間限定で働くことに。しかし、不思議な存在感を発揮する彼女に影響され、もともと問題を抱えていたジョンとエスターの関係に、さらに不協和音が増していく──。
『デリシャス』の海外の評価&筆者の感想(ネタバレなし)

出展元:https://www.heavenofhorror.com
『デリシャス』では、裕福な一家の生活に家政婦として潜り込んだテオドラの狙いが、かなり終盤になるまで示唆すらされず、「ええ! それが狙いだったの…?」とビックリ!
ですが、おそらく本作の重点はテオドラの正体や狙いではなく、富裕層と労働者階級の格差だと思うのですが、筆者は、その視点がどうにも腑に落ちなくて少し消化不良に陥りました。そこを掘り下げるとネタバレになってしまうので、視聴した後に『デリシャス』の見どころ・考察(ネタバレあり)をチェックしてみてください。
とはいえ、テオドラがエスターの自由になりたい欲求やジョンの尊敬されたい欲求など、家族の欲求を巧みに満たして翻弄していく様が、“若きファム・ファタール”といった感じで興味を掻き立てられ、テオドラ役に扮したカルラ・ディアスの好演にも魅了されました。
『デリシャス』のキャスト
ジョンの妻。自由になりたいという欲求を抱えている。
『デリシャス』の全あらすじ(ネタバレあり)
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一家の家政婦になったテオドラ
ドイツ人の夫婦ジョンとエスターは、娘アルバと息子フィリップを連れて、フランスのプロヴァンスンにある別荘へバカンスに行く。一家はレストランでディナーを楽しむが、帰り道でテオドラという若い女性を車ではねてしまう。
しかし、それはテオドラと彼女の友人ルシアンが仕組んだ事故で、テオドラは車にぶつかる前に腕に傷をつけていた。そうとは知らないジョンは病院へ連れて行こうとするが、エスターはレストランでお酒を飲んだジョンが飲酒運転で捕まることを恐れ、テオドラを別荘へ連れて帰って手当てをする。
その晩、一家はテオドラを家に泊めて320ユーロを机に置いておき、翌日になると彼女はお金と共にいなくなっていた。ところが、再び別荘に現れた彼女は、怪我のせいでウェイトレスの仕事を解雇されたと主張し、仕事が必要だからバカンスの間だけ家政婦として雇ってほしいと頼みこむ。ジョンは反対したが、家事をしたくないエスターの口添えで、テオドラは別荘に住み込みで働くことになる。
家族4人の欲求を巧みに満たしていくテオドラ
テオドラは、一家と一緒に過ごすうちに巧みに彼らの望みを汲み取り、エスターの自由になりたい欲求やジョンの尊敬されたい欲求、親友を求めるアルバの欲求、フィリップの恋心に訴えかけて少しずつ一家の一員となっていく。
特にエスターはテオドラと心を通わせるようになり、ある日、自分のドレスをテオドラにプレゼントして二人でディナーへ。ガールズナイトを楽しむ二人がナイトクラブへ行くと、ルシアンをはじめとするテオドラの友達がいて、一緒にお酒を飲んだり踊ったり、久しぶりに味わう自由と開放感を漫喫するエスター。特に、ルシアンと仲良くなる。
年下男子に夢中になるエスター
若者たちと楽しいひと時を過ごしたエスターは、ジョンと夫婦関係のことで喧嘩になってしまう。最初、エスターは夫との口論に動揺していたが、テオドラからルシアンのことづてで、「美しい君に会いたい」と書かれたメモを渡されて有頂天に(←なっちゃうよね~)。エスターは家をこっそり抜け出して、ルシアンに会いに行く。
ルシアンの家に泊まったエスターは喉が渇いて冷蔵庫を開けると、ジップロックに入った腐りかけの肉が大量に入っているのを見つける。エスターは不可思議に思いながらも彼の家に残り、彼の友達のパーティーへ。エスターがトイレで水道をひねると、パイプから血が逆流してきて血しぶきを浴びてしまう。慌ててトイレから飛び出すと、他の部屋で女性が倒れた人の肉を貪っていて驚愕する。
恐れをなしたエスターがパーティーから逃げ出そうとするが、ルシアンたちに捕まり、首を噛まれて餌食になってしまう。
テオドラたちの正体が明らかに
パーティーの後、テオドラは友人たちを引き連れてジョンの別荘へ戻り、今度はジョンを襲う。どこかへ出かけていた息子のフィリップが別荘に戻り、キッチンにあったステーキ肉をチンして食べるが、固い物が歯に当たって吐き出す。それは、父親の結婚指輪だった……。
ラストは、テオドラがアルバをバイクの後ろに乗せて、仲間たちと一緒に走り去るシーンで幕を閉じる。
『デリシャス』の見どころ・考察(ネタバレあり)
カニバリズムがテーマではない
テオドラは事故に見せかけて一家の生活に潜り込んだため、当然ながら筆者は「何が目的なの…!?」と推測しながら視聴していました。ですが、彼女の目当てが一家の人肉だとは予想もしませんでした。
劇中で、ディナーの用意をしているテオドラが、分厚い肉を切りながら生肉を何回か口に放り込むシーンが登場した時に、「ん??」と一瞬思いましたが、特に深く考えなかった筆者。それまでに、カニバリズムを示唆するヒントや描写などが全くなかったので、特に気に留めなかったのです。
とはいえ、本作のテーマがカニバリズムではないことは間違いないでしょう。もしそうであれば、もっとスプラッタ―ホラー的なアプローチで物語を描いていたはずだからです。
富裕層と労働者階級の格差がテーマ
テオドラは、スペインでも特に貧しい地域として知られるアンダルシア出身で、フランスに出稼ぎに行かないと暮らしていけないとの背景が読み取れます。劇中では、彼女が仲間と一緒に金持ちをバカにしたようにネタにするシーンもあり、高級リゾート地のプロヴァンスに別荘を持っているエスターたちとの「富裕層V.S.労働者階級」という縮図は明らか。
筆者が腑に落ちなかったのは、エスターたち富裕層が比較的善良に描かれていたのに対し、貧しいテオドラたちが、金持ちの人肉を貪り食うモンスターのように描かれていた点です。エスターたちは、飲酒運転をしたり浮気をしたりしても「悪人」ではありません。むしろ、テオドラをクルーズに連れて行ったりドレスをプレゼントしたり、彼女を受け入れた「善人」として描写されています。
その図が、「富裕層を脅かそうとする労働者階級」とも取れてしまい、「監督のネレ・ミュラー=シュテーフェンが伝えたい階級格差のメッセージって、どこにポイントがあるんだろう!?」と疑問に。その答えを、映画の中で汲み取ることが出来なかったので消化不良に陥ってしまいました。
第二言語でのコミュニケーション
監督の伝えたいメッセージがハッキリせずにモヤモヤしてしまいましたが、テオドラとエスターたち一家が、彼らにとって第二言語である英語でコミュニケーションを取らざるを得ない設定は良かったと思います。
なぜなら、人は第二言語では母国語よりも大胆になったり、もっと率直になれる傾向があるからです。日本語で「愛してる」とは気恥ずかして言えなくても、英語で「I love you」は簡単に言えてしまったりとか、そういう感覚です。
エスターたちはテオドラと出会って間もないのに、自分たちが抱えている問題に対する自分の本音や欲求を率直に打ち明けていたのは、第二言語でコミュニケーションを取っていたからだと思います。その設定でなければ、「いい大人が若者女子に、そこまで悩みを打ち明ける?」なんてツッコミたくなるところでしたが、彼らは第二言語の英語でないと意思の疎通が図れないので、その点は説得力がありました。
『デリシャス』のまとめ
ネレ・ミュラー=シュテーフェン監督は、富裕層と労働者階級の格差をカニバリズムの要素を加えて浮き彫りにしようと試みたようですが、そのピントがボンヤリしていて印象に残りにくい仕上がりになっていました。
とはいえ、これはあくまで個人的な意見なので、類似したテーマを取り上げた『パラサイト 半地下の家族』や、愛とカニバリズムを描いた『ボーンズ アンド オール』などが好きな人はチェックしてみてください!

