Netflix『ブラック・ミラー』シーズン7ネタバレあり感想&考察 ハイテク現代を痛烈に風刺するトーンがパワーアップ!

『ブラック・ミラー』のポスター
出展元:https://deadline.com

Netflixドラマ『ブラック・ミラー』は、鬼才チャーリー・ブルッカーによる1話完結のオムニバスシリーズ。ハイテク現代を痛烈に風刺する一貫したテーマで、毎話ごとに異なる物語が綴られる作品のシーズン7で何が起こるのか、キャストや見どころなどネタバレありでダイブイン(考察)していきます!



※いつもはネタバレあり・なしの両方であらすじ&考察を紹介していますが、本シリーズはオムニバスなので、ネタバレありのみで記事にしているのでご注意ください。

※目次のタイトルをクリックしたら、行きたいセクションへ飛ぶ仕組みです。

『ブラック・ミラー』シーズン7の概要

製作:Netflix
ジャンル:サスペンス、SF、スリラー
配信日:2025年3月10日
製作国:イギリス
話数:全6話
クリエイター:チャーリー・ブルッカー

『ブラック・ミラー』シーズン7の海外での評価&筆者の感想(ネタバレなし)

【Rotten Tomatoes】
批評家スコア:89%
観客スコア:83%
【筆者の評価】
総合評価:★★★★★
ストーリー:★★★★★
エンタメ性:★★★★★
感動:★★★★☆

第1話:普通の人々

キャスト

マイク(クリス・オダウド)

建築会社に勤務していて、妻アマンダと子作りに励んでいる。

アマンダ(ラシダ・ジョーンズ)

小学校の教師で、夫マイクと仲睦まじい結婚生活を送っている。

ゲイナー(トレイシー・エリス・ロス)

リヴァーマインドの営業員。

あらすじ(ネタバレあり)

テクノロジーに命を預ける選択

小学校の教師アマンダと建設会社で働くマイクは仲の良い夫婦で、子作りに励んでいた。ある日、アマンダが授業中に倒れ、手術が難しい末期の脳腫瘍と診断される。絶望するマイクの元にリヴァーマインド社の営業ゲイナーが現れ、革新的な治療法で妻を救えると提案。冒された神経を読み取って脳をバックアップし、腫瘍除去後に合成組織を移植し、クラウドから認知機能を送ることで意識を回復させるという。

治療費を心配するマイクに、ゲイナーは手術代は無料で、必要なのは月額料300ドルだけと説明。術後は睡眠時間が少し増え、電波タワーの圏内にいる必要があるとの注意だけ受け、マイクはすぐに手術を決断する。

代償は「圏内の生活」と「生きる広告塔」

アマンダは昏睡状態から目覚めるが、結婚記念日の旅行で目的地へ向かっている時に突然意識を失う。リヴァーマインドの圏外に出たためだった。さらにアマンダが奇妙な発言をし始め、二人がゲイナーに相談すると、それは“広告”だと説明される。

アマンダは、勤務中にも生徒や同僚に広告を言うようになり、それを防がないとクビになってしまう。そこで止むを得ず、二人は広告を止めるためにプランを「リヴァーマインド・プラス」にアップグレード。月額料としてさらに500ドルが加算されるため、マイクはバカげたチャレンジでお金を稼げる動画サイトで副業をするようになる。

しかし、その副業がバレて職場でからかわれたマイクは同僚とケンカに。マイクが突き飛ばした相手がロードローラーの下敷きになっていまい、仕事をクビになってしまう。

愛し合う夫婦の悲しい別れ

月日が経つごとに、寝ている時間が増々増えていくアマンダを支えるために、マイクは物を売ったり動画の副業を続けて何とか暮らしていたが、二人の姿は疲労でボロボロだ。それでもマイクは結婚記念日を祝うために、幸福感など様々な感情を選んで楽しめるリヴァーマインドのプレミアムプラン「ラックス」を、妻に30分間プレゼントする。

幸福感に浸りつつアマンダは、「そろそろ時が来た」と自分が死ぬ時が来たと示唆し、涙ながらに別れを告げる二人……。マイクは、再び広告を口にし始めたアマンダの顔に枕を押し付けて窒息させ、カッターナイフを手に別の部屋に行き、自死を仄めかすシーンで終了する。

見どころ&考察(ネタバレあり)

テクノロジーの裏に隠された搾取

この物語は、最新テクノロジーによって「命を救う」ことが可能になった世界を舞台にしながらも、その裏に潜むサブスクリプション経済や現代の広告文化が、人間性をどのように侵食していくかを痛烈に風刺していると思いました。

アマンダは、“身体の一部をクラウドと接続する”ことで病気を克服しますが、これって人間の命や意識が、月額課金によって維持されるサブスクリプション商品になり得るということで、「命すらも月額制になる未来」への警鐘と言えるかもしれません。

Amazonドラマ『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』では、死後に魂や精神をクラウドにアップロードできる世界が描かれましたが、こういう未来っていつか実現しそうで恐ろしい……。

また、リヴァーマインドのスタンダードプランでは、電波タワーの圏外に出ると意識が維持できない設定になっていましたが、インターネットなしでは生活できない現代人を揶揄していることは間違いないでしょう。

それから、プランをアップグレードしないと広告を口にしてしまうアマンダについては、SNSやインフルエンサーを皮肉っているのかなと思いました。個人でコンテンツを投稿しているインフルエンサーに企業がスポンサーとして付き、プライベート空間にまで入り込むターゲティング広告の暴力性を象徴しているように感じました。

第1話「普通の人々」は、現代人が無意識に受け入れつつある“テクノロジーの裏に隠された搾取”を痛烈に風刺していて、見応えのあるストーリーでした。



第2話:ベット・ノワール

キャスト

マリア(シエナ・ケリー)

菓子会社の商品開発担当者。高校時代の同級生ヴェリティが新社員として働き始めたことで、人生が狂い始める。

ヴェリティ(ロージー・マキューアン)

マリアの高校時代の同級生。当時はコンピューターに夢中なオタクで、いじめられていた。

あらすじ(ネタバレあり)

再会と不穏な兆し

菓子会社で商品開発を担当するマリアは、試食会で高校時代の同級生ヴェリティと再会する。ヴェリティはマリアの会社の開発アシスタントの仕事に応募して即採用されるが、高校時代に奇妙な存在だった彼女が同僚になることに不安を覚える。

その予感は当たり、ヴェリティと再会してからマリアの生活が徐々に狂い始めていく。会社のオーナーはイスラム教徒で豚肉を口にしないため、マリアはお菓子のサンプルに豚のゼラチンではなく、海藻を使うようヴェリティに指示した。

しかし、どういうわけかマリアの送ったメールにはその事実が記されておらず、オーナーは誤ってサンプルを食べ、マリアは同僚から責められてしまう。

追い詰められていくマリア

その他にも、マリアに都合の悪い出来事が次々に起こり、すべての元凶はヴェリティにあると信じて疑わないマリア。SNSで高校時代の写真を見ていたマリアは、ヴェリティのことを聞き出そうと久しぶりに友人のナタリーに連絡を取る。ところが代わりに彼女の夫から返事があり、ナタリーが自殺したと知らされる。

さらに不安を掻き立てられたマリアは、会議の時間を知らせるメールを見逃して遅刻してしまう。その時にヴェリティと対峙して、ブチ切れたマリアを上司は解雇する。

並行現実を操る女

マリアは、ヴェリティが常に身につけているペンダントに何か秘密があると疑い、彼女の家に忍び込んでそれを盗むが、隠れていたところをヴェリティに見つかってしまう。彼女は量子コンピューターを使い、自分の発言と一致する並行現実に肉体の周波数を合わせ、マリアだけが異変に気づく時間軸を選んでいたと明かす。

ヴェリティは、高校時代にトンでもない噂をデッチ上げ、いじめたマリアたちに復讐するために戻って来たのだった。ナタリーの自殺も、同じ方法で仕組まれていたと判明する。

さらにヴェリティは、マリアにナイフを持たせて自分を襲おうとしている並行現実を作り出し、そこに警官を呼び込む。しかし、マリアは警官の銃を奪い、ヴェリティを射殺。ペンダントを手にしたマリアは「私は女王」と宣言し、警官を服従させる。そして中世の女王のような衣装をまとい、無数の民にひれ伏される幻想的なシーンで幕を閉じる。

見どころ&考察(ネタバレあり)

『ブラック・ミラー』流ガスライティングの描き方

この物語のポイントは、ヴェリティが量子コンピューターを使い、自分の発言と一致する並行現実に“身体の周波数”を合わせるというSF的なギミックです。この設定はSF的な要素を使い、「ガスライティング」という心理的な暴力を描いているのかなと思いました。

ガスライティングとは、誰かが相手の知覚や記憶、認識を意図的に歪め、「自分がおかしいのかも……」と思わせて支配する心理的虐待のこと。

「ベット・ノワール」では現実の方を歪めてしまい、ヴェリティは、「おかしいのはマリア」ではなく、「おかしい世界にいるマリア」という状態を作り上げていますが、マリアが体験する心理状態は、現実のガスライティング被害者が置かれる孤立状態に似ていると言えるかもしれません。

会社でのミスや突然の解雇など、「何かがおかしい」ことに気づいているのはマリアだけ。誰も自分の主張を信じてくれない状況は、ガスライティングによって追い込まれる被害者の心理的な地獄そのものです。

この物語では、「現実の歪み」とも言えるガスライティングを、「時間軸の歪み」から生じる並行現実によって浮き彫りにしているように思いました。

SF的な要素や最先端テクノロジーの量子コンピューターを使い、ガスライティングの本質を描く手腕が、いかにも『ブラック・ミラー』の真骨頂といった感じで思いっきり唸らされてしまいました。

スクロールに疲れた方へ
・第4話「おもちゃの一種」へジャンプ
・第5話「ユーロジー」へジャンプ
・第6話「宇宙船カリスター号:インフィニティの中へ」へジャンプ



第3話:ホテル・レヴェリー

 

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キャスト

ブランディ・フライデー(イッサ・レイ)

もっと興味深い役を演じたいと望んでいる人気ハリウッド女優。

キミー(オークワフィナ)

最先端テクロジーを使い、昔の白黒映画を低コストでリメイクする会社「リドリーム」のプロデューサー。

ドロシー(エマ・コリン)

オリジナル映画『ホテル・レヴェリー』に主演した女優。

あらすじ(ネタバレあり)

現代女優が白黒映画の世界へ

人気ハリウッド女優のブランディ・フライデーは、ありきたりな役に飽き飽きしていた。黄金期の白黒映画が大好きな彼女は、1930年代の映画『ホテル・レヴェリー』がリメイクされることを知り、主演したいとエージェントに伝える。

映画のリメイクは、最先端のVR技術を使い、昔の白黒映画を低コストでリメイクする会社「リドリーム」が手掛けるプロジェクト。仮想現実に移された『ホテル・レヴェリー』の世界にブランディが行き、主人公アレックスを演じて映画を仕上げるという仕組みだ。

仮想現実で生まれた“本物の感情”

ブランディは、相手役となるクララ役のドロシーのことを事前に調べて、親近感を抱いていた。映画で共演を始めた二人の息はピッタリで、ブラディが役名ではなく本名のドロシーと呼んでしまうミスを犯したり、死ぬはずのキャラクターが死ななかったりなどのトラブルが生じ、プロデューサーのキミーたちはプロットを変更したりで舞台裏はてんやわんやの状態に。

しかも、エンジニアがパソコンにドリンクをこぼして、仮想現実が遮断される事態が発生! もしパソコンが復旧しなければ、ブランディは映画の世界に取り残されてしまう。外部とコンタクトが取れない状況で、ブランディとドロシーはどんどん愛を深めていく。

なんとかパソコンは復旧したものの、途切れた時点からの再スタートとなるため、ドロシーはブランディと愛を深めた過程を全て忘れてしまう。

明らかにドロシーに特別な感情を抱き始めているブランディは、キミーに「もし自分が現実世界に戻らなかったら」という仮説まで立て始めるが、プロットから外れまくりながらも映画はエンディングを迎え、ブランディが最後のセリフを言い、無事に現実世界へ戻って来る。

ドロシーへの想いを吹っ切れないでいるブランディの元に、キミーからプレゼントが届く。それは、パソコンに繋げると仮想現実にいるドロシーと会話が出来る特別な電話で、二人が楽しそうに談笑するシーンで物語は終了する。

見どころ&考察(ネタバレあり)

この物語は、現代人がゲームやVRなどのバーチャル世界で、人間関係や恋愛感情を育ててしまう状況を風刺していることは明らかでしょう。

ドロシーが演じたクララは、『ホテル・レヴェリー』の中にしか存在しない“キャラクター”。いくら生身の人間ように感じたとしても、ブランディが惹かれている相手は人間ではなく、ある種の記憶と感情を持つアバターといえる存在です。

これって、まさに「AI彼氏やAI彼女」への感情移入と同じではないでしょうか。『ホテル・レヴェリー』は、現代の孤独と欲望が“AIに向かう”プロセスを、ラブストーリー仕立てで描いた寓話と言えるかもしれません。

物語の中盤で現実と仮想世界の接続が途切れた後、ドロシーはブランディとの記憶を全て失ってしまいました。この展開は、AI恋人アプリがアップデートや再起動でリセットされる暗喩とも取れます。つまり、「感情を分かち合っていると思っていたのに、それは幻想だった」と、現実を突きつけられる瞬間です。

『ホテル・レヴェリー』は、「AIが自分を覚えていなくても、自分が抱いた愛は本物だったのか?」という疑問を、現代の恋愛物語に問いかけているように感じました。一風変わった製作の舞台裏も笑えるシーンが満載で、シーズン7で一番お気に入りのエピソードです♪

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第4話:おもちゃの一種

キャスト

キャメロン・ウォーカー:成人期(ピーター・キャパルディ)

強盗未遂で逮捕された後、殺人容疑者だったことが明らかになる。

キャメロン・ウォーカー:青年期(ルイス・グリベン)

ゲーム雑誌のライター。進化を遂げる人工生命体に取り憑かれる

コリン・リットマン(ウィル・ポールター)

天才的なゲームクリエイター。

あらすじ(ネタバレあり)

進化する人工生命体「スロングスレット」

時は2034年。スーパーマーケットで酒を1本盗んだキャメロン・ウォーカーという男が警察に拘束され、初犯のはずがデータに照合すると殺人容疑者だと判明して逮捕される。

40年前の1994年。ゲーム雑誌のライターだったキャメロンは、コリン・リットマンというゲーム・クリエイターから「スロングレット」と命名されたソフトウェアを渡され、スロングレットとは進化を遂げる人工生命体だと説明される。

キャメロンは、独自に分裂して数が増えていくスロングレットの飼い主のような存在になり、LSDを摂取すると彼らとコミュニケーションを取れることに気づく。しかし、知り合いのドラッグの売人がスロングレットをビデオゲームだと勘違いして面白半分に殺したことを知り、怒りのあまり彼を撲殺。遺体をバラバラに解体して遺棄する。

それから40年間、キャメロンはスロングレットに必要な物を与えるためにシステムを拡大し、その間にスロングレットは活動を広げて知能を高めていった。

人類とスロングスレットの融合

中年になったキャメロンは殺人事件について尋問を受けるが、それは警察の中央コンピューターにアクセスするための計画で、わざと酒を盗んで逮捕されたのだった。

キャメロンは紙に書いたコードを監視カメラにかざして、中央コンピューターにアクセス。キャメロンは、コンピューターを乗っ取ったスロングレットが緊急放送システムを通して世界中のデバイスから一斉に信号を送り、人類がスロングレットと融合して進化を遂げると刑事に言う。

その直後に、スマホやパソコンの画面が真っ暗になってアップロード用のバーが表示され、刑事や町中の人たちが電気ショックを受けたかのように倒れて、エピソードは終了する。

見どころ&考察(ネタバレあり)

「おもちゃの一種」に登場した天才ゲームクリエイターのコリン・リットマンは、2018年にNetflixで配信された映画『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』に初登場したキャラクター。コリンの登場で、本家シリーズと映画のプチ・クロスオーバーが実現しました。映画版の時代設定が1984年なので、「おもちゃの一種」はその10年後ということになります。

ラストシーンでは、スロングレットが人間の脳のアップグレードを成功させたのか、それともスロングレットが人類を絶滅させたのかという疑問の答えは出ていません。可愛らしい人工生命体が善良なのかどうか、その答えは視聴者の手に委ねられました。

エピソードの邦題は「おもちゃの一種」で、原題は「Playing」です。「Playing」は「遊ぶ」という意味ですが、そもそもスロングレットは人間を進化させようとしたのではなく、単に人間がどこまで出来るか試してみた「試行錯誤の遊び」だったのかもしれません。

スロングレットを最初に紹介したのはコリンですが、どこまでスロングレットを進化させられるのか、「遊び道具」としてキャメロンに手渡した可能性もあります。

また、キャメロンがLSDを摂取してコミュニケーションを取る過程で、いつの間にか「遊ばれてオモチャにされていた」とも考えられるし、とにかく「Playing」という言葉がキーワードとなり、色々な解釈が出来るのではないかと思いました。



第5話:ユーロジー

 

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キャスト

フィリップ(ポール・ジアマッティ)

孤独な独り暮らしの男。何十年も前に別れた恋人を忘れられない。

案内人(パスティ・フェラン)

没入型の葬儀体験を提供する会社「ユーロジー」の案内人

あらすじ(ネタバレあり)

忘れたくても忘れられない過去へ

孤独な独り暮らしの男フィリップに、何十年も前に別れた恋人キャロルが亡くなったとの連絡があり、没入型の葬儀体験を提供する会社「ユーロジー」の案内人から、キャロルの思い出を“アップロード”してほしいと頼まれる。

ためらいながらも依頼を承諾した彼の元に思い出をアップロードするキットが届くが、フィリップはキャロルの顔を思い出せない。そこで古い箱から写真を引っ張り出してくるが、彼女の顔は切り取られたりペンで潰されている。

キットのデバイスをこめかみに装着して写真を見ると、静止した写真の世界に没入しながら過去の記憶にアクセスできる仕様で、その過程でフィリップは過去の傷を掘り返して向き合うことになる。

明かされた真実

フィリップはキャロルと3年交際していたが、チェロリストの彼女が半年間ロンドンで働くことになり、遠距離恋愛になる。しかし、その間にフィリップは女友達と一夜の関係になり、そのことを知ったキャロルと大喧嘩になってしまう。

その数ヵ月後、フィリップはキャロルにプロポーズするつもりでロンドンへ飛び、婚約指輪を用意して高級レストランを予約していた。しかし、彼女はフィリップが注文したシャンペンを飲もうともせず、ディナーの席で指輪を取り出した彼に何も言わずに出て行ってしまう。フィリップは案内人に、彼女に冷たく捨てられたと説明する。

すると案内人は、彼女がシャンペンを飲まなかったのは妊娠していたからだと説明し、その赤ちゃんは自分だと明かす。しかし、彼女はフィリップの娘ではなく、父親はキャロルが一夜の関係を持ったオーケストラの同僚だった。

キャロルはディナーの席でフィリップに妊娠を告げるつもりだったが、思いがけずプロポーズされて返す言葉が見つからなかったから、レストランを出て行ったのだった。

写真が導いた静かなエピローグ

フィリップが没入体験でさらに記憶を探ると、彼が読んでいなかったキャロルからの手紙を見つける。そこには、他の男性の子どもを妊娠したこと、それでもフィリップを愛しているから一緒にいたいと思っていること、同じ気持ちなら楽屋に来てほしいと書いてあったが、彼はその手紙の存在を知らなかったのだ。

人生の大きなすれ違いに涙するフィリップ。ラストは、チェロを弾くキャロルの顔がようやく映り、フィリップがロンドンの葬儀に出席するシーンで終わる。

見どころ&考察(ネタバレあり)

「ユーロジー」は、シーズン7で一番切ない物語でした。フィリップは、VRような没入型デバイスで思い出や過去の記憶にアクセスしますが、このエピソードは現代人の思い出の扱い方や、管理の仕方を皮肉っているのかなと思いました。

一昔前はカメラで写真を撮影して現像し、アルバムに収めて思い出を管理していました。もちろん、フィルム代も現像代もかかるし、ショップにフィルムを出して現像した写真を取りに行かなければならず、時間も手間もかかりました。

対して、今はスマホでカシャカシャと気軽に撮影できるので、失敗しても削除してすぐに撮り直せるし、昔とは写真1枚の“重み”が全然違いますよね。だからこそ、昔はアルバムを取り出して家族と思い出に浸るひと時がありましたが、現代では何百枚もの写真がストレージを埋めていくだけで、写真も思い出も昔ほど大切にしていないような印象を受けます。実際のところ、筆者も撮影した写真をそれほど見返すことはありません。

「ユーロジー」は、そんなアナログの温かみを感じさせてくれる素敵な物語でした。



第6話:宇宙船カリスター号:インフィニティの中へ

キャスト

ナネット・コール(クリスティン・ミリオティ)

現実世界では、完全没入型オンラインVRゲーム「インフィニティ」を開発するカリスター社の社員。ゲームの世界では宇宙船カリスター号の船長。

ジェームズ・ウォルトン(ジミー・シンプソン)

ゲーム世界では前エピソードで自ら犠牲になって、カリスター号の仲間を救った。現実世界ではカリスター社のCTO(最高技術責任者)。

ロバート・デイリー(ジェシー・プレモンス)

ゲームの世界では、永遠にゲームサーバーの心臓部に閉じこめられたまま。現実では亡くなっている。

あらすじ(ネタバレあり)

前エピソードのあらすじ

このエピソードはシーズン4第1話「宇宙船カリスター号」の続編で、『ブラック・ミラー』では初の試みとなります。前エピソードの主人公は、完全没入型オンラインVRゲーム「インフィニティ」を開発したカリスター社のCTO(最高技術責任者)ロバート・デイリー。

彼は、現実世界での不満を解消するため、同僚のデジタルクローンをゲームにアップロードし、彼らを苦しめていた。ところが、新入社員のナネット・コールが反乱を起こし、デイリーは肉体的に死に、永遠にゲームサーバーの心臓部に閉じこめらたままの状態だ。宇宙船カリスター号のクローン乗組員たちはデイリーからは解放されたが、まだゲームの世界に留まったままだ。

デジタルの檻からの脱出

船長になったナネットと乗組員たちは、ゲームの世界で生き残るために3000万人ものプレイヤーと闘い続けなければならない。しかも彼らは、「ノータグ」のステータスなので他のプレイヤーの恰好のターゲットになり、現実世界のゲームデザイナーにもすぐに見つかってしまう。

ナネットたちは、この窮地から抜け出すには、自分たちのデジタル天国を切り開くしかないと悟る。そのためにはジェームズ・ウォルトンを取り戻し、デイリーがいるインフィニティの心臓部へ侵入しなければならない。

現実と仮想の狭間で

現実世界のウォルトンは、故デイリーが禁止されていたデジタルクローン技術をゲームに使用していたと、ジャーナリストから告発される。それを知ったナネットは、デイリーが亡くなる前に、ウォルトンやナネットたちのDNAを密かに摂取してクローンを複製してゲームの世界にアップロードし、そのクローンがノータグゲーマーとしてサバイバルを繰り広げていると説明する。

二人はゲームの世界へ行くが、ウォルトンが乗組員の一人を撃ち殺してしまい、現実世界へ逆戻り。そのことで二人が口論になった後、ナネットは車にはねられて昏睡状態に陥ってしまう。

ゲームのナネットが危機的な現状から脱するためにインフィニティのサーバー心臓部に侵入し、そこに閉じ込められたままのデイリーと対決する。ナネットが彼の息の根を止めるとキルスイッチが作動し、心臓部が崩壊し始める。

その直後にゲームのナネットは、現実世界で昏睡状態に陥っている彼女の体に意識が転送されるが、なんと彼女の頭の中に乗組員も転送されてしまう事態に。ラストは、ナネットが自分の頭の中から乗り組員を出す方法に取り組んでいると言いながら、 とりあえず、みんなでリアリティ番組を楽しむシーンで終了する。

見どころ&考察(ネタバレあり)

前エピソードも続編エピソードも、“メタ”がキーワードではないでしょうか。クローンたちがゲーム内で自己を持ち、ゲーム外でサーバー侵入やプレイヤーとの接触などを計画する展開は、現実と仮想が完全にインタラクティブになった世界を描いています。

もはや仮想の世界を超え、「仮想が現実を動かす」→「現実が仮想を生む」→「両者の境界が交差していく」という構造になっていて、まさにメタバースやAIの領域が直面している現実に近い、未来の姿とも言えるかもしれません。

また、このエピソードでは、生と死がテーマになっているところもポイントです。デイリーは肉体的に死んでいますが、インフィニティの心臓部に意識が残されていてデジタル上で“生きて”いる存在です。

また、ラストではゲームのナネットの意識が、現実世界で昏睡状態に陥った彼女の身体に転送され、「死にかけたナネットの身体をゲームの自我が救う」という逆転現象が起こりました。これは、まさに生死の概念のハックと言えそうです。

「宇宙船カリスター号:インフィニティの中へ」は、こういった哲学的なテーマをポップで皮肉たっぷりに、アクション満載で描いた神回でした♪



『ブラック・ミラー』シーズン7のエピソード・ランキング

それでは最後に、お気に入りエピソードのランキングを独断と偏見で発表したいと思います。

1位:第3話「ホテル・レヴェリー」
2位:第5話:「ユーロジー」
3位:第6話「宇宙船カリスター号:インフィニティの中へ」
4位:第1話「普通の人々」
5位:第2話:「ベット・ノワール」
6位:第4話:「おもちゃの一種」

『ブラック・ミラー』は、第1話から順番に視聴しなくても楽しめるオムニバスシリーズなので、この記事を参考にして、ぜひ気になるエピソードからシーズン7を楽しんでください♪