Netflixドラマ『アメリカ、夜明けの刻』は、米西部の奥地を目指すサラと息子デヴィンと、案内役のリードが乗り越えなければならない過酷な旅路が、新世界の支配を賭けた壮絶な戦いと共に激しいバイオレンスで描かれる西部ドラマシリーズ。この作品で何が起こるのか、ネタバレあり・なしでダイブイン(考察)していきます!
『アメリカ、夜明けの刻』の概要
『アメリカ、夜明けの刻』のあらすじ(ネタバレなし)
舞台は、1857年のユタ準州。サラ・ローウェルは息子デヴィンを連れてブリッジャー砦へ到着するが、クルックス・スプリングスに同行するはずだった旅の案内役とすれ違いになってしまう。サラは、民宿を経営するジム・ブリッジャーから粗野なアイザック・リードという男を紹介されるが、リードは同行を断る。
仕方なくサラは、ファンチャー開拓団というモルモン教徒のジェイコブ・プラットと彼の妻アビッシュを説得。彼らの幌馬車隊と一緒に移動する許可を得て、何とかクルックス・スプリングスへの足を確保する。ところが、マウンテン・メドウズで覆面のグループとネイティブアメリカンの集団に襲われ、サラとデヴィンは命からがら逃げる。ジェイコブは瀕死の重傷を負い、アビッシュは賊に連れ去られてしまう。
賊から逃げるサラとデヴィンが襲われそうになるが、危機一髪のところで二人を助けたのはリードだった。こうして二人はリードと西部を目指すことになるが、実はサラは追われる身で、懸賞金目当てのヴァージルという男が率いる一団が彼女を追っていた。
一方、エドマンド・デリンジャー大尉は、ファンチャー開拓団を襲った賊を捕えるために捜査を開始し、瀕死の重傷から回復しつつあったジェイコブは、アヴィッシュが生きていると信じて捜索を開始する。
物語はクルック・スプリングスを目指すサラたちの一行、彼女たちを追うヴァージルのグループ、ジェイコブのアヴィッシュ捜索を手伝うモルモン教徒の民兵ノーブー軍団と、エドマンド・デリンジャー大尉が率いる連邦政府の軍隊という、4つのグループで物語が進行していく。
『アメリカ、夜明けの刻』海外の評価&筆者の感想(ネタバレなし)

出展元:https://www.netflix.com
実話を基にしたストーリー
『アメリカ、夜明けの刻』は、西部を目指すサラとデヴィンが、マウンテン・メドウズで謎の賊に襲われたことで様々なドラマが展開されます。物語にはモルモン教徒の民兵ノーブー軍団や、実在のユタ準州初代知事のブリガム・ヤングが登場するので、シリーズを観終えた筆者は、「これって実話が基になってるの!?」と疑問が湧きました。
そこで調べてみたところ、Netflixによると、マウンテン・メドウズで起きた大虐殺は実際に起きた事件で、ドラマに登場するフィクション・キャラクターも実在の人物がモデルだったり、歴史に遺された逸話からインスピーションを得ているのだとか。この辺については、「見どころ・考察(ネタバレあり)」で掘り下げているのでチェックしてみてください。
悪役も英雄もいない
本シリーズでは、西部劇にありがちな「白人の入植者v.s.先住民」という構図に、宗教抗争を組み込んだ視点が新鮮でした。これまでに観た洋画や海外ドラマシリーズでは目にしなかったコンセプトだし、モルモン教徒に民兵団が存在していたことも初めて知った筆者。
物語は、ノーブー軍団、モルモン教徒のファンチャー開拓団、先住民族による覇権争いに巻き込まれた人々が軸になりますが、「誰が悪い」という観点で描かれていなかったのも印象的でした。
ひと昔前、この手の西部劇では、白人の入植者が英雄的に描かれるのが普通でした。ですが、本シリーズは実話が基になっているだけに、法があってないような危険な時代を生き延びようとしていた人々の生き様にフォーカスし、英雄も悪役を決めないアプローチが正解だったと思います。
ただ、戦闘シーンなどのバイオレンスが激しすぎて、グロいのが苦手な筆者は、テレビのスクリーンを手で覆いながら観賞せざるを得ませんでした(笑)。巷では西部劇版『ゲーム・オブ・スローン』とも称されているので、壮絶な戦闘シーンなどが好きな人は、こういったシーンも楽しみながら観賞できるのではないでしょうか。
『アメリカ、夜明けの刻』のキャスト
『アメリカ、夜明けの刻』の全あらすじ(ネタバレあり)

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舞台は、1857年のユタ準州。サラ・ローウェルは息子デヴィンを連れてブリッジャー砦へ到着するが、クルックス・スプリングスに同行するはずだった旅の案内役とすれ違いになってしまう。サラは、民宿を経営するジム・ブリッジャーから粗野なアイザック・リードという男を紹介されるが、リードは同行を断る。
仕方なくサラは、ファンチャー開拓団にというモルモン教徒のジェイコブ・プラットと彼の妻アビッシュを説得。彼らの幌馬車隊と一緒に移動する許可を得て、何とかクルックス・スプリングスへの足を確保する。
ブリッジャー砦を出発したサラたちが目的地へ向かうなか、砦のジムの元に男が訪れ、サラ・ホロウェイを探してると言うではないか。実のところ、彼女は東部で男を殺した罪で追われる身で、1500ドルの懸賞金をかけられていたのだ。その話を聞いていた、ならず者のヴァージルと彼の仲間たちは、その男を殺してサラを捕えるべく後を追う。
マウンテン・メドウズの大虐殺
サラたちの旅は順調だったが、幌馬車がマウンテン・メドウズで野営をしていると、覆面のグループと先住民のパイユート族に襲われ、ファンチャー開拓団は殲滅状態に……。サラとデヴィンは命からがら逃げるが、ジェイコブは頭部に瀕死の重傷を負い、アビッシュは連れ去られてしまう。
逃亡中のサラとデヴィンが賊の追っ手に襲われそうになり、間一髪のところで二人を助けたのはリードだった。彼に再び案内役を頼んだサラは持ち金を彼に渡し、一緒に西部を目指すことになる。しかし、途中でヴァージルたちに追いつかれて襲撃され、その時にサラとデヴィンを助けてくれたのが、虐殺が起こる前にサラの馬車に隠れていた先住民の少女トゥー・ムーンズだった。
捜査に乗り出したデリンジャー大尉
瀕死の重傷を負いながらも、なんとか砦に戻ったジェイコブは、連邦政府の軍隊で大尉を務めるエドマンド・デリンジャーに虐殺の詳細を報告。虐殺の場を検証した大尉は、馬の蹄鉄が地面に残っていたため、馬に蹄鉄を付けない先住民ではなく、モルモンの民兵団だと検討をつける。しかし、先住民が襲ったとの情報もあり、捜査を続ける。
惨殺を免れたアビッシュ
アビッシュと数人の女性たちはパイユート族にさらわれ、彼らの野営地で縄で縛られていた。そこへ、ショショーニ族の戦士レッド・フェザーの一団が現れ、パイユート族のメンバーを抹殺。モルモン教徒の女性たちも次々に処刑されるが、なぜかレッドフェザーはアビッシュの命は奪わず、集落へ一緒に連れて帰る。
最初、アビッシュは縄で縛られた状態で捕われ、隙を見て何度か逃げようとした。だが、彼女は徐々に抵抗しなくなり、彼らと生活を共にするようになる。特にレッド・フェザーの母親で、英語を話せる平和主義者の酋長と心を通わせていく。
距離が縮んていくサラとリード
旅の途中、サラとリードたちはジプシーの集団に襲われ、リードは腹を撃たれてしまう。それでも、旅を続けるリードが馬から転げ落ちてしまい、サラたちが動揺しているとショショーニ族が現れ、リードを馬に乗せて集落へ連れて帰る。集落でリードと話をしたサラは、彼が幼少時代にショショーニ族に買われ、集落で育った過去を知る。
リードの怪我が回復したため、サラたちは旅を続けるが、蹄を怪我した馬から振り落とされたデヴィンが、馬に蹴飛ばされて右脚を骨折する事態に見舞わてしまう。一行が山小屋で治療と療養の時間を取る間、サラは、リードがショショーニ族の女性と結婚して息子がいたが、二人とも殺された辛い過去を知る。様々な試練を共にして乗り越えていくうちに、サラとリードの絆が深まっていく。
ノーブー軍団の正体を知ったジェイコブ
一方ノーブー軍団は、先住民に妻をさらわれたと思っているジェイコブにアビッシュ捜索の援助を申し出るが、それは、虐殺の場でノーブー軍団に繋がる何かを目撃したかもしれないジェイコブと、生きている可能性があるアビッシュを殺すことが目的だった。
そこへサラたちを追うヴァージル一行が現れ、サラたちのグループにもう一人女性がいることを知ったジェイコブは、それがアヴィッシュ(実はトゥー・ムーンズ)だと思い、ヴァージルの追跡に同行することに。ジェイコブを見張るために、ノーブー軍団のクックも加わることになる。しかし、虐殺の際にジェイコブの友人から奪った懐中時計をクックが持っていることに気づいたジェイコブは、マウンテン・メドウズでファンチャー開拓団を襲ったのはノーブー軍団だと悟る。人目がない時に、ジェイコブは背後からクックを襲って殴り殺す。
その場をヴァージルの弟ルーカスに見られてしまい、ヴァージルはジェイコブと別行動を取ることに決める。ジェイコブは精神状態が不安定になり始めていたにもかかわらず、山中に独り置き去りにされてしまう。
虐殺の首謀者を突き止めたデリンジャー大尉
デリンジャー大尉は、ショショーニ族の集落で怪我の治療をしていたリードや、虐殺の場でノーブー軍団のメンバーを目撃していたアビッシュから話を聞き、マウンテン・メドウ大虐殺の首謀者がノーブー軍団だと突き止める。ところが、大尉の部下はノーブー軍団のスパイで、連邦政府の軍隊がノーブー軍団を攻め入る前に先手を打たれ、奇襲を受けた連邦軍隊は壊滅状態となった。
ジェイコブとアビッシュの悲恋
山中にいたジェイコブは、ノーブー軍団に発見される。アビッシュがショショーニ族と一緒にいると知ったジェイコブは、妻を取り戻すためにノーブー軍団と一緒に彼らの集落へ向かう。しかし、ノーブー軍団の襲撃を予想していた部族から逆襲される。戦いが激しくなるなか、ジェイコブは、部族と同じように顔を黒塗りにしたアビッシュを先住民と間違えて、銃で撃ってしまう。
ようやく相手が妻だと気づいた彼は再会に狂喜するが、すでにアビッシュは息絶えていた。自分が妻を射殺してしまったことを悟った彼は泣き崩れ、銃で自分の頭部を撃って息絶える。
リードとの悲しい別れ
デヴィンの怪我が治り、サラたちは再びクルックス・スプリングスを目指して出発しようとするが、ヴァージルたちに追いつかれ、サラが連れ去られてしまう。馬の足跡を追跡してサラの居場所を突き止めたリードは、夜に奇襲をかける。縄をほどかれたサラはリードに加勢し、ヴァージルを射殺。脚を撃たれて影に隠れていたヴァージルの弟ルーカスは、すべてを目撃していて兄の死に泣き崩れる。
無事、二人はデヴィンとトゥー・ムーンズと合流し、クルックス・スプリングスまで1マイルの所まで辿り着く。ところが、リードは妻と息子が眠るブリッジャー砦に戻ると言う。その決断にサラもデヴィンも動揺するが彼の意志を尊重し、最後の最後でサラはリードに自分の想いを伝え、二人はキスを交わす。
切ない別れの後、リードが来た道を戻っていると、ヴァージルの弟ルーカスが馬に付けいていた人形が地面に落ちていることに気づく。サラに危険が迫っていると悟ったリードは踵を返し、3人の元へ向かう。リードは、サラに銃を向けていたルーカスに向かって突進し、銃撃戦に。リードはルーカスの息の根を止めるが、リードは銃で致命傷を負っていた。サラは、だんだん息が弱くなるリードに優しく声をかけ、彼の最期を看取る。3人は、やぐらを組んでリードを火葬して弔う。最後にサラは、夫と再会するために向かっていたクルックス・スプリングスではなく、カリフォルニアへ旅立つことに決める。
『アメリカ、夜明けの刻』の見どころ・考察(ネタバレあり)

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当時の時代背景
Netflixによると、『アメリカ、夜明けの刻』が舞台となった時代、米軍はユタ州からモルモン教徒を追い出そうとしていたとのこと。ブリガム・ヤングとモルモン教徒は、軍隊がいつ攻撃してきてもおかしくないと感じていたため、ノーブー軍団という民兵団を結成。ノーブー軍団は、ファンチャー開拓団など外部の幌馬車隊とも敵対するようになり、圧力をかけるようになっていったそうです。
対するショショーニ族とパイユート族は、米政府とモルモン教徒から土地を奪われていたため、戦って死ぬ覚悟はいつでも出来ている状態でした。そんな秩序なき世界で生き延びるためには、先手を打たざるほかなかったのでしょう。マウンテン・メドウズは、これらの勢力が、その地域を通過する権利があると感じていた交差点であったため、大虐殺が起こってしまったと説明されています。
実在の人物がモデルに
本シリーズに登場したキャラクターで実在したのはブリガム・ヤングのほか、彼の部下であるワイルド・ビル・ヒックマン。劇中では、ジム・ブリッジャーにシャベルで足を傷つけられていましたが、彼は悪名高い保安官でノーブー軍団のメンバーでした。
レッド・フェザーの母親でショショーニ族の酋長は、レズビアンで複数の妻がいた実在の酋長がモデルになっているそうです。
ジェイコブの妻への執着
本シリーズを観て疑問に思ったのが、ジェイコブのアビッシュへの異常なほどの執着心です。冒頭で、本来ジェイコブはアビッシュの妹と結婚するはずだったとの説明がありました。
明らかに、二人はまだお互いのことをよく知らないようだったし、アビッシュが他の女性たちに、「この結婚にしっくりこない」と言っていたのが気になります。それなのに、ジェイコブがあれほどの執着心でアビッシュを探す理由が不明で、「なんで…!?」という思いが拭いきれなかった筆者。しかも、当時のモルモン教徒は何人でも妻をめとれたのに、ジェイコブの執着心が理解できないままで不完全燃焼でした。
後で、ジェイコブが必死にアビッシュを探していた驚愕の理由が明かされるのかと心待ちにしていたのに、その展開はありませんでした。まさか、単に「アビッシュがメッチャ美人だから」という理由じゃないですよね?(笑)。でも、そういえばレッド・フェザーも、アビッシュだけは殺さずに集落に連れて返ったいたしな……。
男の中の男、リード
単刀直入ですが、筆者はもうリードに惚れてしまいました💛 最初、サラの案内役を断ったリードですが、子どもを失った辛い経験をした彼は、危険な旅にデヴィッシュを連れて旅立った彼女のことが気がかりだったのでしょう。おそらく、虐殺から逃げたサラとデヴィンに危険が迫った時に、お助けマンのごとくリードが登場したのは、おそらく二人を心配して後を付けていたからでは……?と筆者は考えています。
リードは、粗野で寡黙で何を考えてるのか分からないところもあるけど、責任感が強くて熱いハートを持った男。しかも、最後にサラと別れた時に、こっそり案内賃をサラのバッグに戻していたのもハートにズキュ~ン(←表現が昭和)で、もうメロメロ💛 この時点でリードに惚れない女性がいたら、その人の顔を拝みたいレベルです(笑)。
男の中の男、リード。最近、こういうタイプの男性キャラクターを、海外ドラマシリーズでまったく見かけていなかったので嬉しい発見でした。
サラの最後の選択
自分の命を投げうってサラたちを守り、英雄的に散ったリード。彼を葬った後、サラが「カリフォルニアへ行きましょう」と言った時、筆者は「えー!! クリックス・スプリングに行かんのかい!?」と驚愕!
あれだけ、「夫が待っている」と言い張ってリードを巻き込んだうえ、そのせいでデヴィンは脚を大怪我し、リードは命まで犠牲にしたというのに、コロっと目的地を変えてしまったサラの決断に、複雑な思いになってしまった筆者……。
とはいえ、デヴィンは父親に会ったことがなく、彼の年齢を考えると、もう何年もサラと夫は音信不通になっていたはず。夫と再会したところで、良いことはなかったかもしれません。なぜ、そこまでサラがクリックス・スプリング行きにこだわったのか、夫との関係も謎ですよね。その辺は、ジェイコブとアヴィッシュの関係についても言えますが……。
サラとしては、夫に会いに行く代わりにカリフォニアへ向かうことで、リードへの愛を貫こうという想いだったのかもしれません。
『アメリカ、夜明けの刻』のまとめ
ここ近年、ハリウッドは西部劇がちょっとしたトレンドになり、テイラー・シェリダンがクリエイターを務めた現代的な西部劇『イエロー・ストーン』をはじめ、そのスピンオフドラマ『1883』や『1923』も話題になりました。特に後者の2本は、白人の入植者が先住民の土地を奪って迫害していた時代なので、『アメリカ、夜明けの刻』の設定に近いものがあります。
その2作品に対し、『アメリカ、夜明けの刻』は、「白人の入植者 vs. 先住民」という構図に宗教抗争を組み込み、さらに実話を基にしているため、単純な勧善懲悪にはとどまりません。各勢力の思惑が絡み合い、それぞれの信念が激しくぶつかり合うことで、歴史の残酷さと人間の葛藤を深く印象づける作品になっていると思います。
筆者は、『1883』と『1923』よりも、『アメリカ、夜明けの刻』の方を評価しました。2点ほどツッコミどころはありますが(笑)、かなり見応えのあるシリーズのなので、『アメリカ、夜明けの刻』をぜひNetflixでチェックしてみてください!

