Netflixドラマ『アドレセンス』は、13歳の少年ジェイミー・ミラーが同級生の少女を殺害した容疑で逮捕され、ミラー家を襲った悲痛な物語が描かれるリミテッドシリーズ。本作で何が起こるのか、ネタバレあり・なしでダイブイン(考察)していきます!
『アドレセンス』の概要
『アドレセンス』のあらすじ(ネタバレなし)
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13歳の少年ジェイミー・ミラーが同級生のケイティ・レナードを、キッチンナイフで7ヶ所刺して死亡させた容疑で逮捕された。
警察に連行されたジェイミーは、取り調べや採血などで同伴する「適切な大人」として父親のエディを指名。ジェイミーは父親に「自分はやっていない」と言い張るが、警察は動かぬ証拠を掴んでいた。
第1話は逮捕当日、第2話は事件から3日後に、捜査を担当したバスコム警部補がジェイミーが通う学校に聞き込みに行く様子、第3話は収容訓練施設に収容されたジェイミーが心理療法士の面談を受けるシーンが中心となり、第4話は事件がミラー家に与えた影響が色濃く描かれる。
アドレセンス』の海外での評価&筆者の感想(ネタバレなし)
もう圧巻で、とにかく驚異的なシリーズでした。本当に言葉も出ないぐらい、ズシンと音を立てて心に訴えかけてくる作品で、おそらく2020年代において最も衝撃かつ重要な作品になるのではないでしょうか。
『アドレセンス』は、ジェイミーが本当にケイティを殺したのかどうかが焦点ではなく、第1話の前半で彼が犯人であることは明らかになります。問題は彼が犯行に及んだ理由であって、それは第2話と第3話で少しずつ明らかになっていきます。
本シリーズは、今も根強く現代に蔓延る女性蔑視や、ここ近年で取り上げられるようになったインセルやマノスフィア文化、若者がソーシャルメディアから受ける影響といった問題にも深く切り込んでいて、かなりディープなメッセージを発信している作品。この辺のところを、『アドレセンス』の見どころ・考察(ネタバレあり)で掘り下げているのでチェックしてみてください。
また、ジェイミー役を演じた新星オーウェン・クーパーやエディ役のスティーヴン・グレアムなど、キャストの圧倒されるような最高級の演技も見逃せません。
『アドレセンス』の登場人物・キャスト
『アドレセンス』の全あらすじ(ネタバレあり)
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第1話:ジェイミーの逮捕
ある日の早朝、バスコム警部補が率いるSWAT部隊がミラー家に突入し、13歳のジェイミー・ミラーを連行。ジェイミーは、キッチンナイフで同級生のケイティ・レナードを刺し殺した容疑で逮捕された。
ジェイミーは、取り調べや採血などで同伴する「適切な大人」として父親のエディを指名。エディは息子と二人になった時に、ケイティを殺したのかどうか訊くが、ジェイミーは何度も「やっていない」と言って犯行を否定し、エディはその言葉を信じる。
しかし、バスコム警部補が見せた監視カメラの映像に、ジェイミーがケイティをストーキングし、駐車場で彼女をナイフで何度も刺している犯行現場が捉えられていた。エディは、その映像を見て大きなショックを受ける。
第2話:事件から3日後
バスコム警部補とフランク巡査部長は、ジェイミーの学校へ聞き込みに行く。二人が教室で生徒たちに質問していると警報器が鳴り、生徒たちは運動場へ避難。その時、いきなりケイティの親友ジェイドが、ジェイミーの友達ライアンに「あんたが私の親友を殺した!」と罵倒しながら殴りかかったため、バスコムはライアンに事情を聞くことにする。
怪我をしたライアンが保健室で手当てを受けている間、バスコムはライアンに話を訊こうとするが、明かにライアンは質問を避けようとしていて、慌てて保健室から出て行ってしまう。
バスコムたちが生徒との対応に手を焼いていると、その学校に通っているバスコムの息子アダムが見かねて父親に、ケイティがジェイミーのInstagramの投稿に侮辱的な絵文字を送り、その絵文字に他の生徒たちが大勢「いいね!」をしていたと手掛かりを教える。
アダムは、ケイティが送った赤い錠剤の絵文字はマノスフィア(男性界隈や男性文化圏を指す造語)の誘いを意味し、ケイティは赤い錠剤が爆発する絵文字をもって、ジェイミーを「インセル」だと揶揄したと説明する。
インセルとは、「モテない男性が婚期を逃した結果として独身生活を送り、その腹いせ的に女性蔑視を行うこと」を意味するが、アダムによると、ケイティは赤い錠剤が爆発する絵文字で、ジェイミーに「アンタは一生童貞よ」というメッセージを送ったという。
アダムの説明でバスコムは、ジェイミーがケイティや他の生徒からいじめを受けていたことを知る。その話を聞いたバスコムは、もう一度ライアンと話をしようとして教室へ行くが、ライアンは窓から逃亡。バスコムに捕まったライアンは、自分が凶器のナイフをジェイミーに渡したことを白状して逮捕される。
第3話:事件から7ヶ月後
裁判が始まるまで、ジェイミーは収容訓練施設に収容されていた。心理療法士のブリオニー・アリストンは、すでにジェイミーと4回面談していて、今回は5回目。
すでに二人は打ち解けた雰囲気で雑談的に会話をしていたが、ブリオニーが父親エディや祖父との関係、男性性について話そうとすると、ジェイミーは話題を避けるように「施設から出たい」と懇願。彼女が「何も出来ない」と答えると、ジェイミーはドリンクをぶちまけて激怒し、完全にブチ切れまくって豹変する。
それでもなおブリオニーは、Instagramの投稿やいじめについて質問し、ケイティが好きな男子にトップレスの写真を送り、スナップチャットで他の男子に回覧されていたことを知る。ジェイミーは、胸のサイズについて悪口を言われたケイティが落ち込んでいると思い、精神的に弱っている女子は落としやすいはずだと判断してデートに誘ったが、「そこまで必死じゃない」と断られ、例の侮辱的な絵文字を送られたことも明らかになる。
またもやジェイミーはブチ切れまくってブリオニーに罵声を浴びせ、面談の後に彼女は完全に動揺しきって震えていた。
第4話:エディの50歳の誕生日
エディは50歳の誕生日を迎えたが、家の前に止めていた車に、嫌がらせで侮辱の言葉がスプレーで落書きされていて動揺してしまう。すると、落書きをした若者たちが自転車で罵声を浴びながら走り去り、エディは激怒する。
妻と娘と3人でホームセンターへペイント落としを買いに行くが、エディがジェイミーの父親だと気づいた店員に奇妙なことを言われた挙句、ホームセンターまで追いかけて来た落書きの若者たちを目撃し、エディは怒りのあまり、買ったばかりのペンキを自分の車にぶちまけてしまう。
その帰宅途中、施設にいるジェイミーから電話があり、裁判が始まる前に容疑を認める決心を固めたと伝えられる。エディと妻は泣き崩れ、育て方が悪かったのかと自分たちを責めてしまう。エディは父親に暴力を振るわれていたため、自分は絶対子どもに手を上げないと決めていたと妻に言う。
ジェイミーが幼かった頃の思い出話などをして、「ジェイミーが容疑を認めたことは良かったんだ」とお互いに言い聞かせる二人。エディはジェイミーの部屋のベッドに泣きながら崩れ落ち、ベッドに置いてあったテディベアにキスをして、「ごめんな、パパの力不足だった」と謝って終了する。
『アドレセンス』の見どころ・考察(ネタバレあり)
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インセルとマノスフィアとは何か?
インセル
視聴者はエピソードが進むにつれて、SNSの中で生きる現代のティーンエイジャーの世界に引き込まれていきます。
バスコム警部は息子アダムから、「80対20の法則」や「インセル文化」について説明を受けました。「80対20の法則」とは、80%の女性は20%の男性にしか惹かれないとの統計を指し、普通に男性が女性にアプローチしても成功率が低いことを意味します。
インセルとは、「恋愛や性的な関係が上手くいかないと感じる男性」のこと。インセル文化では、「女性は男性が望むような愛情や性的関係を提供するべき」、「男性は女性から何かを奪い取る権利がある」という危険なメッセージが広まっていると言われています。
つまり、男性が女性にアプローチしても成功率は低いから、男性が求める関係などをを女性から奪い取るという女性蔑視的な考えです。
マノスフィア
そして、「マノスフィア(Manosphere)」とは、「man(男)」と「sphere(圏)」を合わせた造語で、「男の世界」や「男性文化圏」という意味。マノスフィアは、社会がフェミニズムやポリティカル・コレクトネスによって不当に変えられ、その影響で男性が不利益を被っていると考える、ミソジニー(女性嫌悪)的な男性の集まりのことです。
ジェイミーは、トップレス写真を男子たちに回覧されたケイティが落ち込んでいると考え、その隙に取り入ろうと企んでデートに誘ったと心理療法士に明かしていましたが、それはかなりインセル的な考え方だと言えます。
ここ近年、Me Tooムーブメント(セクハラや性犯罪被害の体験をSNSで告白・共有する運動)や、有害な男性性について語られることが多くなったため、表立った女性蔑視に遭遇する機会は減ったものの、見えいところで男性の女性蔑視が燻っていると感じることが少なくありません。
SNSの世界で生きる現代のティーンエイジャー
ケイティは、“赤い錠剤が爆発する絵文字”で「インセル」を表現した訳ですが、たった一つの絵文字が、一人の少年に殺意を抱かせるほどの爆弾級の威力を持つとは、もう恐ろしすぎます……。
アダムは、ハートの絵文字の色も紫は「性的関心あり」で、黄色は「興味あリ」といった具合に、それぞれ意味があると説明していました。一つの絵文字が持つメッセージをいちいち解読し、対面ではないネット上で多くのやり取りをしなければならない現代のティーンエイジャーは、「真のコミュニケーション」を知ることが出来るのだろうかと心配になってしまいました……。
また、トップレス写真を回覧されてしまったケイティも、SNSの世界に生きるティーンエイジャーの典型的な被害者だと言えます。
父親のエディが、部屋にこもってパソコンにへばり付いていたジェイミーが、何を閲覧しているのかまで監視できないと言うシーンがありました。エディには短気な面がありますが、子どもと妻に対する暴力はないので、ジェイミーは有害な男性性を父親ではなく、ネットで学んでしまった可能性が高そうです。劇中で明確にはされていませんでしたが、おそらくジェイミーはネットでインセルやマノスフィアについて知り、その考えに傾倒していったのではないかと思われます。
『アドレセンス』では、劇中で提起された問題を説教じみたトーンで説くわけではなく、親子がこういった問題について話合える機会を提供しているスタンスが良かったと思います。
全編ワンカットの斬新なスタイル
『アドレセンス』は、最初から最後まで全編ワンカット(=長回し)という、斬新なスタイルで撮影されました。
したがって、まるで誰かがその場でスマホで録画しているような、ドキュメンタリータッチの臨場感を醸し出し、さらにストーリーにリアリズムを加えていたと思います。
『アドレセンス』で気になったキャスト
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とにかく筆者は、ジェイミー役を演じたオーウェン・クーパーの凄まじい演技力に本気でド肝を抜かれてしまいました! しかも、本シリーズがスクリーンデビューだというから、またまたビックリ!
特に、ジェイミーが心理療法士ブリオニーと面談する第2話の演技は、エミー賞もののパフォーマンスでした。穏やかな普通の少年の側面から、自分の望む答えを得られないとブチ切れまくる側面に切り替わるシーンなど、大人の名優でも、あれほどの演技を披露できる器は少ないのではないでしょうか。ブリオニーとの息を呑むほど緊張感あふれるやり取りは、ドラマ史に名を刻む傑作シーンだと思いました。
オーウェンの演技力は、『アドレセンス』の配信前から業界で話題になっていたようです。『プロミシング・ヤング・ウーマン』(←傑作!)でアカデミー賞脚本賞を受賞したエメラルド・フェネルが監督を務める映画『嵐が丘』で、すでにヒースクリフの少年時代を演じることが決定しているというから、今後の成長と活躍が本当に楽しみです!
また、エディ役のスティーヴン・グレアムも絶賛に値する演技で、キャストの素晴らしいパフォーマンスに支えられたシリーズだと言えるでしょう。
『アドレセンス』のまとめ
『アドレセンス』は、SNSやインターネットの世界から逃れられない青少年が、インセルやマノスフィア、その他の歪んだメッセージや思想に影響されたり、洗脳される危険性を訴えた作品です。こういったパワフルなメッセージを伝えるシリーズを視聴して、現代に蔓延る問題について考えてみてはどうでしょうか。ぜひ、Netflixでチェックしてみてください!

