Netflixの海外ドラマ『アップルサイダービネガー』は、末期の脳腫瘍を自然療法で治したと偽り、ウェルネス起業家として成功したインフルエンサー、ベル・ギブソンの実話に基づくミニシリーズ。見応えある本作を、ネタバレあり・なしでダイブイン(考察)していきます♪
『アップルサイダービネガー』の概要
『アップルサイダービネガー』のあらすじ(ネタバレなし)
若くして母親になったベルは、腕に発症した稀な腫瘍を自然療法で治し、SNSの黎明期にインフルエンサーになったミラ・ブレイクに憧れていた。幼少時代から虚言癖があるベルは脳腫瘍を闘っていると偽り、ウェルネスアプリ「ホール・パントリー」を立ち上げ、たちまち業界でパワフルな存在となる。
しかし、インフルエンサーとしてウェルネス界のトップに上り詰めたベルに対し、脳腫瘍について嘘をついていたのではないかとの疑惑が浮上し、彼女が築いたエンパイアが崩れ始めていく……。
『アップルサイダービネガー』の海外での評価&筆者の感想(ネタバレなし)
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ベルは、思春期に心臓発作を偽って病院に搬送されたこともあり、病気を装って周囲の注目を集めるミュンヒハウゼン症候群であることは間違いないでしょう。
そんな自己顕示欲の強い彼女が、Instagramが誕生したばかりの黎明期に、自然治療で稀な癌を克服し、ウェルネス界でインフルエンサーとなったミラに憧れて自己認証欲求の塊となり、嘘に嘘を重ねて周囲の人々のみならず、SNS上の他人にも悪影響を及ぼしていく様が恐ろしかったです。
筆者も、食品添加物がたくさん含まれている食品は摂らないようにしていますが、マクロビやヴィ―ガン食を本格的に実行している人たちにとって、もうウェルネスって一種の信仰みたいなものなんだろうなと思いました。本シリーズでは、ウェルネス産業のダークサイドが説得力ある形で描かれています。
個人的には、自己チューのナルシストで、自己承認欲求と自己顕示欲にまみれたベルの人間性に虫唾が走ってしまいましたが、実話を基にした作品として重要なメッセージが込められているし、エンターテインメント作品としても上手くまとまっているので、秀作ミニシリーズを観たいという人にオススメです。
『アップルサイダービネガー』のキャスト
『アップルサイダービネガー』の全あらすじ(ネタバレあり)
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2009年、若く美しいミラ・ブレイクは左腕に未分化多形肉腫を発症し、医師には腕を切断するしかないと宣告される。しかし、腕を失いたくない彼女は自分でリサーチして、メキシコのリトリートで自然療法を受けることする。摂取するのはオーガニックジュースのみで、コーヒーを腸内に流して老廃物を排出する、コーヒー浣腸を1日に5回行う施術で癌が改善する。
その過程をSNSで発信したミラは、たちまちインフルエンサーとして影響力ある存在に。そんな彼女に憧れていたのが、若くして母親になったベルだ。幼少時代から病気を偽る虚言癖があった彼女は、ネット掲示板に脳腫瘍だと書き込み、ユーザーから大きな注目を集めて励ましの言葉を得たことに味をしめる。
もともと、自然素材を使ったベビー用品のオンラインショップを軌道に乗せようとしていたベルは、Webサイト構築について相談したクライヴの家に転がり込み、二人は交際を開始。ベルは、ブリスベンで開催されたミラの本のサイン会に参加するが、時々SNSでメッセージのやり取りをしていたミラに適当にあしらわれてしまう。
それ以来、ミラにライバル意識を燃やすようになったベルは、ベビーグッズのオンラインショップをやめ、自然食品のアプリ「ホール・パントリー」の立ち上げに方向転換する。ベルはクライヴとの子どもを妊娠中で24週目に入っていたが、アプリの完成直前に流産してしまう。クライヴは悲しみに暮れていたが、ベルは新事業に専念し、ホール・パントリーは大成長を遂げ、瞬く間にベルはウェルネス界のカリスマ・インフルエンサーとなる。
その過程でベルは、がん患者の子どもを支援するキャンペーンをSNSで展開したり、チャリティ団体への寄付を宣言する。ベルが成功を遂げる一方で、ミラは腕の腫瘍が再発し、新しく始めたジュースのビジネスも軌道に乗らず、講演にも人が来なくなっていた。そんな時にベルと知り合ったミラの親友で、彼女の仕事を手伝うことになっていたシャネルは、ベルにビジネスマネージャーの仕事をオファーされ、そちらの仕事を選んでしまう。
しかし、ベルの人間性に疑問を抱き始めたシャネルは、ベルが脳腫瘍のことで嘘をついていると確信し、ジャーナリストのジャスティン・ガスリーに連絡を取り、ベルと決別する。ジャスティンの妻ルーシーは乳がんと診断されて闘病中で、自然療法で脳腫瘍を克服したベルを崇拝していて、化学療法の治験をやめようと考えていた。そこで、ジャスティンは同僚と共にベルの過去を探り始めるが、病院や医師は患者の病歴を開示できないため、徹底的な証拠が掴めないでいた。しかし、ベルが募った寄付金の行方や使い道を辿り、彼女がお金を着服していることが分かれば詐欺罪で告発できることに気づき、その線で調べていく。
そんななかミラが帰らぬ人となる。ベルの母親がメディアの取材を受け、娘の脳腫瘍は嘘だと暴露し、ベルの立場が危うくなっていく。そのせいでホール・パントリーの本の出版も中止となったうえ、ジャスティンたちがベルの詐欺疑惑を記事にしたため、ベルは窮地に立たされる。
ベルとクライヴはすっかり心が離れていたが関係を修復し、二人は息子を連れて、逃げるようにカリフォルニア州へ所を移す。しかし、2017年にオーストラリアの連邦裁判所は、誤解を招く行為でベルを有罪にした。ジャスティンの妻は化学療法を再開して快方に向かっているようで、二人の幸せそうなシーンで物語は終了する。
『アップルサイダービネガー』の見どころ・考察(ネタバレあり)
ベルとミラのコントラストが鮮烈!
ベルもミラもオーガニック食品しか口にせず、自然療法でがんを克服したとSNSで発信してカリスマ・インフルエンサーになり、数多くの共通点があります。しかし二人の決定的な違いは、ミラが真摯なのに対し、ベルが嘘にまみれていることです。
しかも、家族や婚約者のアーロ、親友シャネルから愛されているミラに対し、ベルは血の繋がった母親にすら疎まれ、最初は上手く丸め込んでいたクライヴからも愛想を尽かされ、誰にも愛されていません。まるで陰と陽、光と影のように対照的な二人のコントラストが鮮烈でした。そんなベルとミラを演じた、ケイトリン・デヴァーとアリシア・デブナム=ケアリーの演技が素晴らしかったと思います。特に、ナルシストで自己顕示欲と自己承認欲求の塊で、思わず虫唾が走ってしまうようなベル役を全力で演じたケイトリンの演技は、エミー賞に値するパフォーマンスではないでしょうか。
自分の立場が悪くなったら泣き落としにかかるベルのパターンに、筆者は呆れて目をグルっとさせてしまいましたが、そんな彼女の演技に、クライヴや危機管理で雇われたへクがコロっと騙されてしまうシーンは、「男どもよ……」と溜息が出てしまった筆者。その一方で、脳腫瘍のことでベルを問い詰めたシャネルには、全く泣き落としが通用しなかったので笑ってしまいました。やっぱり女同士だと、どういう意図でやってるのか見え見えですからね(笑)
ベルは精神疾患があるのか……?
本シリーズを観てすごく気になったのが、現実のベルに精神疾患があったのかどうかということです。彼女が、病気を装って周囲の注目を集めるミュンヒハウゼン症候群であることは間違いないでしょう。また、24週目で流産して、息をしていない赤ちゃんを抱きしめても特に大きな悲しみを見せず、がんの息子を持つママ友が寄付金の振り込みのことで連絡すると電話をブロックしたり、明らかに他人への共感能力が欠けているし、嘘に嘘を重ねるところなどもソシオパスの傾向があるように思います。
『アップルサイダービネガー』が、どこまで事実を基にしているのか気になったので、下の記事で掘り下げてみたのでチェックしてみてくださいね♪
どの情報を信じるべきなのか分かりにくい現代の危険性
現代では、テレビやネットのニュースなどの他に、SNSという新たなメディアが加わり、膨大な情報で溢れ返っています。しかも、最近はフェイクニュースが流れるのは当たり前で、どの情報が正して、何が間違っているのか判別するのが難しくなっています。そんな状況では、「信じたいことだけを信じて、見たい物だけを見る」という人間の性(さが)は、誤った情報を選びがちになってしまうのではないでしょうか。『アップルサイダービネガー』では、ベルを崇拝していたルーシーがそれに当たりますが、何を信じるかによっては自分の人生をブチ壊されかねないので、本当に怖い世の中になったな……と痛感してしまいました。
『アップルサイダービネガー』のまとめ
嘘にまみれているのに、世界的に影響を及ぼす実業家に上り詰めたベルの人生が実話だなんて、本当に「事実は小説よりも奇なり」ですよね。ですが、自分の人生やライフスタイルをいくらでも演出できるSNSでは、自己承認欲求にまみれた人たちが、「少し真実をかすっている」嘘の人生を発信し続けているんだろうな……という思いに駆られて、SNSから距離を置きたくなってしまいました。
1話が約60分と長めですが、ストーリー展開と演出がエンターテインメント性に溢れているので、すぐに全6話をイッキ見してしまうはず。見応えある実話を基にした『アップルサイダービネガー』を、ぜひNetflixでチェックしてみてくださいね♪

